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福田尚代 略歴   あるいは作品に関するメモ   2010-2013   
 
 
2010
 
「髪の毛もふたつの目もおどおどした頭も天国では見えなくなってしまうのでしょうか…」
エミリ・ディキンスンの詩の一節に心をつらぬかれる。
大切にしまっておいた古い少女漫画から、女の子たちの髪の毛と瞳と指と唇を切り抜き、箱にしまう。
 
小学生の時に書いた作文と詩と読書感想文の原稿用紙の束を見つける。
言葉が書かれている升目をすべて切りとる。写しはとらない。
切り離した升目を混ぜ合わせる。二度と読むことができない。
 
真新しい原稿用紙は湖に見える。
湖上から罫線の梯子が立ちのぼり、天へ伸びてゆく。
梯子を一段上るたびに升目がひとつ落ち、水面に浮かぶ。
 
原稿用紙を彫刻する。
波打ち際が現れる。
〈海岸線〉と名付ける。
 
原稿用紙から升目を一つだけくり抜いて穴をあける。
同じことを何百枚もくり返してから、
ぴったりと重ね合わせて積みあげる。
紙の天辺に、小さくて四角い、深い井戸が現れる。
底を覗く。
 
以前、今は亡き女性たちの名前を白や灰色の色鉛筆に刻印した。
それらをもう一度とり出して削りはじめる。
やがて色鉛筆は芯だけになる。
その芯をさらに彫刻する。
ひどくもろい。
ほとんどが粉になる。
わずかな形だけが残る。
 
11月6日
消しゴムの夢を見る。
白い骨のような輪郭線だけが残されている。
 
もう一度、すべての原稿用紙の升目をくり抜く。
無数の正方形がどこか遠い場所に降り積もってゆく。
細い罫線だけが残る。
 
物を砕き続けた果ての微粒子、言葉の粒子の素描をはじめる。
 
世界の残像のような、少女漫画の日光写真の素描をはじめる。
 
2011
 
光が容赦なく降りそそぐ。
罫線だけになった原稿用紙を日光写真で写しとる。
 
2010年にはじめたことをひたすら続けている。
 
2012
  
古い少女漫画の頁に縫い針で細かな孔をびっしりとあける。
陽にかざすと、無数の孔のせいで、泣いた顔も笑った顔もいっせいに消える。
不意の救済。
 
文庫本『ランボオの手紙』の頁を隅々まで針で穿つ。
無数の穴。太陽にかざした途端に文字が消える。
 
素描と少女漫画にも穿孔がはじまる。
 
本の背からしおり紐を切りとって綿状にほぐした〈書物の魂あるいは雲〉をとり出す。
さらにほぐしはじめる。
繊維が細かくなりすぎて、ついには色が消える。
 
2010年にはじめたことのすべてをまだ続けている。
 
2013
 
 
夢の中で見たコラージュにハッとする。
私はそれが自分の作品であることや、題名や素材や、
過去のコラージュ〈髪の毛もふたつの目もおどおどした頭も…〉の姉妹であることを知っている。
目が覚めると古い少女漫画をとり出して、その〈頬と余白〉を作りはじめる。
 
コラージュの連作、一連の回文、
原稿用紙の彫刻、消しゴムの彫刻、色鉛筆の芯の彫刻、
ほぐされたしおり紐は島となり、〈翼あるもの〉は砂浜で休んでいる。
少女漫画への刺繍と穿孔、素描への穿孔、文庫本の頁への穿孔……
2010年以降にはじめた事のすべてが、ひとまず終了する。
 
 
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