©Naoyo Fukuda
福田尚代 無題 1989 年 消しゴム、紙片
「最後まで使い切ってもらえなかった消しゴム」約300個を並べ始める。実際に、私が子どもの頃から集めてきた「誰かの消しゴム」だが、1989年には「架空の人物の収集行為」として発表した。
©Naoyo Fukuda福田尚代 泡とウズラ 1976-2014 年 消しゴムに彫刻
収集した「人が最後まで使い切らなかった消しゴム」は、私が最後まで使い切るべきだったのだろうか。でもなぜかそうではないと感じて、長いあいだ大切にしまっておいた。とうとうある日、思いきって消しゴムをこすってみると、驚くほど鮮やかでなめらかな物体が現れた。粉々に折れたシャープペンシルの芯が、消しゴムの内部に大量に埋まっていることも分かった。もしかしたら当時の持ち主たちも、授業中にコツコツとペンで井戸を掘り、水底に映る星を見つめていたのかもしれない。外科手術のように、地雷のように、ピンセットで慎重に芯をとりのぞいていく。元の持ち主が掘った水路に沿って、消しゴムをさらに小さく解体する。かつて消しゴムに突きたてられた一瞬の感情の棘を、40年の歳月を経て摘出している。使い古された痕跡の消失を惜しむ気持ちとともに、洗われて、すすぎすすがれる感覚に浸されてゆく。