©Naoyo Fukuda
福田尚代 電話帳(偽事務員の仕事シリーズより)1989-2018 年 電話帳、紙片、墨、インク、鉛筆、糊
制作を始めて間もない二十歳の頃、丸を描く・点を打つなどの無意味な反復行為に没頭してしまう子供時代からの性質を見つめ直すために「偽女事務員の仕事」のシリーズに着手しました(後に「偽事務員の仕事」と改題)。「シールを一面に貼られたこたつ板」や「ばかな女の子の手紙」の捏造、膨大な「他人が捨てた消しゴム」や「電話中の落書き」や「封緘」の収集、「観測写真」の撮影等を続けながら、制作の原点を自覚し、回復させていったのです(参考画像)。それらの多くは未発表で現存しませんが、《電話帳》や《泡とウズラ》のように、手を加えながら人知れず変化を続けてきた作品もあります。初期の《電話帳》は、拾った電話帳を黙読しながら、「いきてる」と書かれた小さな手製の紙片をひとりひとりに貼っていく行為でした。近年は、名前と住所と電話番号を一文字ずつ墨と筆でなぞっており、本を素材とした作品としては第一作目でありながら、かつ最新作でもあります(2018年4月現在)。「無意味な仕事をする偽事務員」という役柄への憑依は、子供時代に愛読したコナン・ドイルの小説『赤毛組合』への応答ではないでしょうか。
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福田尚代 ソラナックス製ボートとハルシオン丸(彫刻された錠剤シリーズより)2004-2018 年 錠剤に彫刻
関連作品《薬の舟》
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福田尚代 巡礼/名刺(名刺に刺繍シリーズより99枚)2007-2010 年 名刺に刺繍
上記二作品と共に並列してみると、一見愛らしく見えるこの作品に潜む切実な死の地平と、それを超えて射し込んできた光をどうしても思い返さずにはいられません。「名刺に刺繍」は、同じ「紙に刺繍」をする行為であっても、「書物に刺繍」とは異なる切迫した状況から生まれました。(つづく)